無職の雑記

Garbage in, garbage out.

最近読んだ本(ペソア、ボラーニョ、デリーロ)

新編 不穏の書、断章 (平凡社ライブラリー)

新編 不穏の書、断章 (平凡社ライブラリー)

私はバナナを買うことで、この瞬間を荘厳に祝い聖なるものとすることができるかもしれない。あのバナナのうちには、仕掛けのない反射鏡のように、太陽がすっかりそのまま映っているかのようなのだから。でも、私は、習慣や象徴を恥じるし、道端で物を買うのが恥ずかしい。きちんと包装してくれないかもしれないし、私がしかるべき仕方で買わないために、しかるべき仕方で売ってくれないかもしれない。値段を訊ねるときの声がおかしいと思われるかもしれない。生きるという危険を冒すよりは、物を書いている方がよいのだ。たとえその生が、陽に光るバナナを買うことでしかなく、それとても太陽が輝くかぎり、売るバナナがあるかぎりのことだとしても……。

たぶん、またいつか、……そう、今度は……別の人なら、多分……どうだろうか……。(pp.118-9)

大げさだよ、ペソア。気持ちは死ぬほど分かる気がするけど、大げさだよ。こんな調子の人だから、読むと、心があたたまるというか、そんな本だけど、別に面白いようなものでもない。でも、本って面白いか否かで読むだけのもんでもないですよね。  

[改訳]通話 (ボラーニョ・コレクション)

[改訳]通話 (ボラーニョ・コレクション)

自分が読んだのは改訳前のヴァージョンだけれど。

ときどき思い出したように妹以外の人から手紙が届くこともあったが、それは南米各地に散り散りになって以来、不定期に連絡を取り合っている南米出身の詩人たちからのもので、どれもぶっきらぼうで物悲しく、若者であることをやめ、夢の終わりを受け入れ始めた僕たちを忠実に映し出す鏡のような手紙だった。(p.47、「エンリケ・マルティン」)

いいよね、ボラーニョ。短編集だから食い足りないとも思うのだけど、彼の長編は『野生の探偵たち』も『2666』も人を殺せるくらい分厚くて、ちょっと手が出ない。  

天使エスメラルダ: 9つの物語

天使エスメラルダ: 9つの物語

1979年〜2011年に発表された短編が9つ、時代順に収録されてるけど、自分が好きなのは圧倒的に最後の2作、「槌と鎌」と「痩骨の人」。自分は老デリーロが好きなんだな。「痩骨の人」の冒頭はこんなの。

すべてが、その女よりずっと前にはじまったとき、彼は一部屋で暮らしていた。環境の改善は望まなかった。そこが彼の居場所だったのだ。一つだけの窓、シャワー、電気コンロ、バスルームに据えたずんぐりした冷蔵庫、乏しい所持品を入れる間に合わせのクローゼット。ある種の何も起きない事態は、時として瞑想に似る。ある朝、座ってコーヒーを飲みながら虚空を見つめていると、壁からつき出たランプがカサカサ音を立てて燃え上がった。配線に問題があるんだな、と彼は冷静に思い、煙草を消した。炎が上がって、ランプシェードが泡を吹いて溶け出すのを見守った。記憶はそこで終わっていた。

何がどうとは言えないけど、もう完璧ではないですか、これ。でも面白いのは、この短編、こんな話じゃないんですよ。