無職の雑記

Garbage in, garbage out.

藤木明子『ゆめのうしろーーレビー小体型認知症の患者』

ゆめのうしろ―レビー小体型認知症の患者

ゆめのうしろ―レビー小体型認知症の患者

図書館で偶然手に取った。レビー小体型認知症と診断された、86歳の詩人の実体験を綴った本なのだけれど、小説として傑作だと思う。一つ、引用する。

つい一週間ほど前にはこんなことがあった。電気炬燵で、転た寝をしてしまった私が目覚めたのは、部屋の隅にある大きな木の揺り椅子の上だった。覚めぎわの私は半ば死んでいて、私の生死を確かめる人たちが入れかわり立ちかわりして板塀の隙から覗いてくる。そこへ、お茶を出そうとするが誰も手伝っては呉れない。私は声を張りあげて母を呼んだ。

お母ちゃん、お母ちゃん、と子供の時のように。

自分の張りあげる大声がやっと声帯を突き抜けた感覚があって私は目覚めた。母はとうとう出てきてくれなかった。まだ遠くにいるのかもしれない。(pp.47-8)